ジュリエット・グレコ第1集

真理英弁、レコード 005 ジュリエット・グレコ第1集

フランス フィリップス N76000R「ロマンス」「私は私」「愛し合う子ら」「抱きしめて」「パリの空の下」「バルバラの唄」「枯葉」「日曜日は嫌い」

ジュリエット・グレジコが今秋また来日するという。いったい彼女は何歳になったのであろうか。たしか1927年の生まれだから82歳・・・。

 戦後まもなくのパリ、サン・ジェルマン・デ・プレ界隈にサルトル等実在主義者や多くのインテリ風の人たちがたむろしていた頃、長い髪と黒い服をまとってサン・ジェルマン・デ・プレの女神のように崇拝されていたのが若き日のグレコだった。べつに哲学者だったわけでもないだろうが、彼らサン・ジェルマン・デ・プレの鼠といわれた連中のアイドル的存在として、ある種のリアリティを感じさせていた時期が彼女にはあった。そんな時代は長くは続かなかったが、その頃のグレコの面影を伝えるのがこのレコードである。

 彼女の低音の声はなかなか魅力的だし歌唱も新鮮で洗練されており、なにより独得の雰囲気があって、それが当時の彼女の風貌ともよく似合っていたし、当時のパリの空気を見事に反映していた。

 パリは燃えずにすんだが、戦争は人々の心に暗い影をもたらした。戦前のロマンティックなあたたかさは影をひそめ、知的だが冷たく荒涼とした気分が拡がっていた。

 当時のフランス映画からも感じられるこの雰囲気が彼女の歌にも感じられる。伴奏は弦主体の格調高いものだが、不思議とそんなグレコに調和している。

 その後もグレコは多くのレコードを出しているが、神話と伝説に彩られたこの頃のものは格別の光影を放っている。時代は変わり、グレコも変わったが、グレコが時代精神ともっとも強く結びついていたのが、この時代だったように思う。